2008年09月29日

小説『親鸞と真佛』(2)

とある日、私は三条通のまだ町家がたくさん残る西洞院から京都の繁華街河原町通に向かって歩いていた。肌を気持ちよい乾いた風がなでていく秋口の午後のことだ。京都の中央のメインストリート烏丸通りを少し過ぎて東洞院通りのあたりからなんとなく周りが薄暗くなってきた。曇ってきたというわけではない。空は青く晴れているというのに、町並みがだんだん灰色になっていくのだ。まるで薄暮の感じだが、それだけでなくだんだん周りの町並みが、その薄暮の中に消えていくのだ。あの三条高倉の文化博物館の赤いレンガの建物も消えていく。
三条通は、現代の京都の通の中で数少ない平安京のときの条通の名残の道で、東から西に立派に通り抜けている。戦争で焼かれなかったという京都は、結構時代的な建物を残しているが、三条通にはそうしたものが残されている。そんな建物が、今の私の目の前から消えていくのだ。といって原っぱになったわけではない、薄暮から霧の町の中にはいったといえばわかってもらえるだろうか。

どのくらいの時間がたったのだろう。霧の中といった状態の私の目の前に、また町並みが少しずつ現れてきた。霧が晴れ周りが見えてくる状況に近い。しかし、現れた風景は、見慣れた三条通の町並みではなく古い時代劇を見ているような町並み、いや現代で言うならばちょっとした寺の外塀といった感じの景色のように思われる。崩れてはいるが白塀だったと思われるちょっと長い塀がだんだん目の前にはっきりとしてきた。
私は、遠くまで歩いたというのではない。濃霧の中に紛れ込んだ状態で東と思われる方向に少し歩いたに過ぎないのだが。いったい私はどこに出たと言うのだろう。確かに京都の三条通を歩いているはずなのだが。今見る景色はこれまでの三条通では見たことがない。三条通で寺といって頭に浮かぶのは、はるか西の太秦の広隆寺くらいなのだが。
景色がはっきりとしてくると、歩いている人の姿も見えてくる。ああ、どうしたことか、まさか映画村のセットの中に紛れ込んだのだろうか。いや、どうもそうではないようだ。セットなら、それなりの雰囲気があろうというものだが、今目に入るものはそんな付け焼刃の景色ではない。どう見ても本物のようだ。
かなり時代がかった人たちが歩いている。人の流れは結構多いとは言うものの、現代よりは少ないかと思う。おおきな違いはせかせかと歩いていないということだ。まるで時の流れが三分の一くらいになったように、スローモーションの映画を見ているようでもある。
いったい私は、自分自身がどんな格好をしているのかと自分の服装を見たが、何にも変わってはいない。ごく当たり前の私の時代の服装だ。町を歩く人たちにはどう見えているのだろうかと思ったが、町を歩く人たちは私にはまったくの無関心、私は彼らには存在していないのだろうか。


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 ここに記載している名前『村沢』は、私の小説の中に登場する人物で架空のものです。
 また筋は、これまでに読んだ文献から作者自身の思いとして独自に組み立てたものです。
 そのため、史実とは異なっているものと違っている可能性がかなり大きいとお考えください。
 
 WEB公開していますが、著作権は放棄していません。

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