2008年10月11日

小説『親鸞と真佛』(14)

 恵信尼への文 2

「上人。なんと、なんと、菩薩様がお相手の女人に変わってくだされば、『女犯』の問題はなくなるではないですか。形は、女人であっても、それは実は菩薩様。これならば、どなたも問題はなくなるというもの」
「真佛よ。早とちりするではない。これは、何も万人に向かって示されたものではないのだ。あくまでも、今恵信とのことで悩んでいる私に対してものなのだ。女人への差別の扱いがなくなれば、現世における男女の交わりが、本当の意味での扱いになれば必要のないお言葉なのだ。ではなぜ今私にということなれば、それはそのときはまだ宗門で『女犯』が認められるわけはなく、女人の扱いが変わることも望めないことからの、弥陀の計らいであろう。時間の経過とともに世の中が変わり、女人の扱いが等しくなれば不要なことなのだよ」
「上人。大変失礼しました。確かに、女人が同じ扱いをされているのであれば、菩薩に代わっていただくこともありません。しかし、そのような世になるのはいつのことでございましょう」
「真佛よ。女人が同じ扱いを受ける世を少しでも早くするために私は心を決めたのだ。その思いと遂げるには、何とかして恵信を説得せねばならない。この菩薩の示現の文を恵信が読み、決断してくれることは、弥陀の計らいとして、私は信じていたのだが」
「上人。それで、恵信尼様からのご返事は」
「真佛よ。恵信の後の話でのことだが、正直な気持ちとしては安堵し、喜んだとのことだ。しかし、すぐに返事を返すことは躊躇したと申していた。その躊躇した理由は、九条様や三善家にいかに話すべきかを考えあぐねていたとのことだ。数日考えていたが、決めかねて、夜も眠れぬ日が続いたとのことだが、おそらく私であっても同じことであろう」
「上人。お悩みなられたお気持ちわからぬではございません。ところで、その救世大菩薩の示現をもう少し詳しくお話いただけないでしょうか」
「真佛よ。そうだな。先ほどの話では、何がなんだかわからないだろうな。夢の中では救世大菩薩が巻物を持って現れ、それを私に示されたのだ。その巻物には、
行者宿報設女犯  我成王女身被犯
一生之間能荘厳  臨終引導生極楽

と漢文で書かれていたのだ。つまりは、過去の因縁で『女犯』をすることになった行者、そう私のことだな、『その行者が前世の因縁で女子と交わりを持たねばならなくなったときは、菩薩が玉女となってその相手の女子に成り代わり交わりを持とう。そして一生の間厳かにお付き合いをし、臨終に際しては必ず極楽に導くであろう。』ということなのだ。私が交わりを持つ恵信は、実は菩薩の化身ということになるのだ」
「上人。その示現の文を書き留めさせていただけませんか。下野高田のみなに読ませたいものです」

 真佛は、懐から矢立を取り出し、親鸞の口から出る漢字を懐紙に書きとめている。親鸞に関する研究論文では、真佛筆の『女犯偈』は何かの書を書き写したものというのが定説だが、この情景からは書面の書写ではなく、口伝を書きとめたものということか。




第13回 <= 第14回 => 第15回






**
 ここに記載している名前『村沢』は、私の小説の中に登場する人物で架空のものです。
 また筋は、これまでに読んだ文献から作者自身の思いとして独自に組み立てたものです。
 そのため、史実とは異なっているものと違っている可能性がかなり大きいとお考えください。
 
 WEB公開していますが、著作権は放棄していません。

この記事へのトラックバックURL

 

  
2015大津・京都の旅
1泊2日のドライブ旅行
2015北海道・道東の旅
1週間870kmのドライブ旅行
大学OB会と
50年ぶりの鎌倉
OB会の後に鎌倉と横浜に行ってきました
15年年頭 広島宿泊の旅
鞆の浦、竹原、宮島に行きました
14年秋 京都宿泊の旅
久しぶりに新幹線に乗りましたが・・・
13年秋 京都ドライブ旅
京都の紅葉の名所・毘沙門堂に行きました
12年秋 室生寺ドライブ旅
すてきな観音様と再会です
室生寺五重塔
12年秋 京都ドライブ旅
1年ぶりの京都です
三千院
10年秋 平泉ドライブ旅
4泊5日 2000キロの一人旅です
平泉・わんこそば
   
10年夏 室生寺 日帰り旅
素晴らしい観音さんに出会いました
室生寺・五重塔
10年初夏 宇治・長岡 日帰り旅
09年11月26日久しぶりに黄檗山満福寺・六地蔵・法界寺谷寺・長岡天神
布袋さん
09年秋京都 日帰り旅
09年11月26日久しぶりに 紅葉がきれいな京都
南禅寺の紅葉
08年秋京都 日帰り旅
08年11月25日貧乏・一人・日帰り旅の記録です。
鳳凰堂を望む
観光シーズン 京都の歩き方
京都市・地下鉄 東西線沿線
09年浅草と川越
浅草観音
07年信州の旅
上田城内
アクセスカウンタ
プロフィール
生田
生田
 トップの写真は、我が家の庭で、鳥達につつかれ実もなくなり枯れ果てた柿の枝です。人生も同じで、仕事仕事で突き回されてここまで来て、落ち着いたら、だんだん枯れていくんだという思いです。  
オーナーへメッセージ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。 解除は→こちら
現在の読者数 24人
QRコード
QRCODE