2008年10月19日

小説『親鸞と真佛』(22)

 
 親鸞の結婚 6

 都から越後へ行くには、小浜あたりから船で行くのでなければ、どこかの峠を越えねばならない。雪解けを待ったとしても、妙高の麓あたりは、現在の五月であっても峠付近には雪が残っている。トンネルのない昔は、高い峠を越さねばならないが、高い所は夏でも日陰には雪が残るほどである。特に雪がたくさん降った翌春は、その残雪も多かったことだろう。

 こんな辛い話を親鸞は、遠い思い出を懐かしむかのように真佛に向かって淡々と離していた。真佛もその話を遮ることなく黙って聞いていた。

 どのくらいの時間が経ったのだろう。秋の日が空を赤く染め始めている。そして、庵の中もだんだん薄暗くなってきている。
 そこで、真佛が話を締めくくるかのように口を開いた。

「上人。大変辛いお話でございます。しかし、越後に戻られてからの上人のご活躍は、聞き及んでおりますし、下野、武蔵にお移りになれてよりのご布教のお姿は私も目の当たりにさせていただきました。しかし、その上人のご活躍も恵信尼様の支えがあったからということでございましょうか」
「真佛よ。まこと;真その通りだな。恵信と生まれてきた子供たちからの心の支えなくては、あのように広く多くの方とお会いすることもなく、釈尊の教え、空師の教えを多くの方に語ることなどできはしなかったであろう。これも、すべて、弥陀のお心のなす業であろうな」
「上人。それにしましても、今日おうかがいしたお話の中に流れているものは、恵信尼様のお心の支えと同時に、その元になっているのが、三つの夢告ではございませんでしょうか」
「真佛よ。それはその通りだ。釈尊の解かれた道、仏の前でのすべての人の等しい姿、男も女も同じという思い、とくに女人の受けている差別を何としてでも解かねばならぬという強い決意は、真佛の申すように、あの三つの夢の御蔭であるな。特に、恵信を説得するためのもののようになった六角堂での観音菩薩の示現『女犯偈』が私と恵信の間の支えであり、それが私の布教の支えでもあったのだ。すべて、仏のお導き、弥陀の御計らいの家族の心の支えというものがあればこそ、現世で生きる楽しみというものであろう。これが現世でのまこと;真の往生というものであろうな。
短いとはいえ五年という恩師・空師法然上人のお導きについて、これまでの私の生き様には何の後悔もない。既にこの世での往生をいただいているという気持ちが、このようにさわやかな気持ちで生きておれるのだが。空師のもとに参ることになった三つの夢告はやはりすべて弥陀の計らい。ありがたいことじゃ。南無阿弥陀仏」




第21回 <= 第22回 => 第23回






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 ここに記載している名前『村沢』は、私の小説の中に登場する人物で架空のものです。
 また筋は、これまでに読んだ文献から作者自身の思いとして独自に組み立てたものです。
 そのため、史実とは異なっているものと違っている可能性がかなり大きいとお考えください。
 
 WEB公開していますが、著作権は放棄していません。

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